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大量生産された商品は、消費されなければならない。 そこで、所得の倍増計画がうたわれ、消費意欲を刺激するためのさまざまな施策が試みられ、戦略が唱えられた。

なかでも象徴的なのが、「戦略10訓」である。 この「戦略10訓」は1960年代に、当時のDセンターがアメリカのジャーナリスト、V・Pの『浪費をつくり出す人々』からヒントを得てつくったもの。
それは、時代を切り開く最先端の企業戦略として、多くの経営者の座右の銘となった。 高度成長時代の目標が鮮明に浮かんでくるだろう。
どんどん作れ、どんどん買わせろ、どんどん捨てさせろ「大量生産・大量消費・大量廃棄」の大号令だ。 日本古米の伝統的なライフスタイルとしての「もったいない精神」とは、真っ向から対立するものであった。
無駄や浪費をあおる高度成長時代。 人々は、何のためらいもなく、自然から大量の資源を奪取し、産業活動によって発生するゴミを自然に投棄した。
「戦略10訓」にもあるように、経済成長を支えるためには、無駄遣いさせ捨てさせることが、絶対条件であった。 そのため世の中には、「捨てることは美徳」という主張が蔓延して、「もったいない精神」はいつのまにか片隅に追いやられてしまった。
大量廃棄のゆくえ高度成長とひきかえに、1950年代の終わりから60年代にかけて、「(熊本)水俣病、第2水俣病(新潟水俣病)、イタイイタイ病、四日市ぜんそく」という4つの大きな公害が発生した。 1956年4月、熊本県水供市で、5歳の少女が、原因不明の激しい脳症状を訴えて入院。
魚を食べた猫が路上でころげまわった。 チッソ(S)工場のアセトアルデヒド製造工程から排出されたメチル水銀化合物による中毒である。
59年にはK大学研究班により、その原因がチッソの水銀であるとされたが、政府がこれを認めたのは発見から10年以上たった68年であり、この間に被害は大きく広がった。 95年10月、熊本県における水俣病申請者数は1万3476人であったが、認定されたのはわずかに1773人。
この年には与党3党の最終解決案が閣議決定されたが、政治的解決を見るまでに、なんと公式発見以来40年もの歳月がかかった。 1965年ころ、新潟県で第2水俣病が発生した。

阿賀野川河口から60q上流にあるS鹿瀬工場からのメチル水銀による中毒事件である。 83年までに、認定患者685人、ほかに未認定の患者は1000人以上にのぼるといわれる。
92年3月、新潟地裁は水俣病を認め、Sに多い人で800万円の損害賠償を命じた。 1955年、富山県神通川流域に発生したイタイイタイ病が学会に報告されている。
これは、骨が軟化してすぐ折れるようになり「イタイイタイ」と訴えながら死に至る場合が多いことから、このようによばれる。 神通川上流にあるMから排出されたカドミウムが原因。
被害者は82年までに107人で、うち70人が亡くなった。 1950年代の終わりころ、三重県四日市でぜんそく性の疾患が多発した。
コンビナート(工場群)から排出された亜硫酸ガスが原因。 67年、近接する地区の患者9人が、6社(S、C、I、M、M、M)に対して訴訟を起こし、勝訴した。
これらの公害はすべて、利潤を追い求める市場経済が、資源を際限なく使い、廃棄への配慮を怠ったことによる必然的な結果だ。 こうした産業システムは、いずれも「定常開放システム」から大きく逸脱している。
わたしたちはここから、自然の摂理を踏みはずすことの恐ろしさを読み取らなければならないだろう。 今日、日本の海や河川、大気、土壌は、高度成長時代に比べれば美しさを取り戻したかのようにみえる。
産業廃棄物の規制もあって、4大公害のように、有害物質の大がかりな廃棄は規制され、すぐに明らかな健康被害があらわれることも少なくなったように見受けられる。 「公害」という言葉は、「環境問題」という表現にとって代わられつつある。
しかしはたして、公害は影をひそめたのだろうか。 「定常開放システム」から社会を見直すクリーン○○、エコ××、地球にやさしい△△、など、環境改善をとなえる文言が氾濫する昨今。

循環型社会を構築しようと、環境ビジネスが声高に叫ばれている現代。 だが、本当にそれらは、持続可能な地球につながるものなのだろうか。
生命圏における物質・エネルギー循環を損なうことなく、定常開放システムとしての地球エンジンをよみがえらせることができるのだろうか。 今日、日本をふくむ先進国は、市場経済に基礎をおき、GDP(国内総生産)を経済成長を積もる尺度としている。
人々はGDPによって社会の豊かさを評価し、その増大をめざして産業の振興につとめている。 一方、アメリカの経済学者、K・Bは、1966年、「成長経済における環境の質に関する未来資源研究会」において、従来の社会経済学についてつぎのような趣旨の評価を述べている。
「従来の経済学は、資源の採集と廃物の放出を無限に増大しうるかのような、『カウボーイ型経済』であった。 だが、実際の地球は、資源にせよ廃物にせよ、無限の貯蔵庫などもってはいない閉じた世界であるから、『宇宙船型の経済』でなければならない」と。
生命圏はエネルギー的には宇宙に開いている。 この生命圏の窓こそ、熱(エネルギー)を太陽から受け取り、廃熱を宇宙に放射することができる、宇宙に開かれた通路だ。

太陽はこれからも50億年は輝き、地球にエネルギーを供給しつづける。 また、地球からの廃熱は、宇宙という無限に広大な廃棄場に捨てることができる。
このエネルギー(広い意味での自然エネルギー)を資源として利用すること、そして宇宙への正常な排熱ルートを確保することが、「定常開放システム」としての持続可能な地球を実現するための第1の条件である。 工業が芽生える前まで、地球の生命圏には、このようなしくみが備わっていた。
一方、生命圏は、物質的には閉じたシステムである。 生命圏で利用する資源(石油、石炭や動植物)はすべて生命の中でまかない、かつ廃棄物は生命圏の内部へ捨てなければならない。
まさしくこれこそが、ボールディングのとなえる「宇宙船型の経済」だ。 生命圏内部にあるさまざまな環境エンジンが、「定常開放システム」として機能することが大事なのである。
これが、持続可能な地球を実現するための第2の条件である。 このような文脈から示唆されるのは、今日のGDP社会のあり方を、「定常開放システム」の視座に立って、真摯に見直すことである。
「豊かさを求める」という建て前のGDP社会は、物質的な豊かさは実現したかもしれないが、精神的な幸福度をふくめて真に豊かな国になったといえるのだろうか。 利益という金銭の最大化を追い求める現代人は、未来世代への責任について何の配慮もしないエゴイストではないのだろうか。
わたしたちはいま、高度成長時代の「戦略10訓」を見て、「こんな馬鹿なことがあったのか」と一笑に付すことができるのだろうか。 ひるがえってみれば、「定常開放システム」の発想は、むしろ日本文化の根底にあったことがわかる。
人と人、人と自然のつながりを大切にした包括的な世界観は、たとえば「一木一草に仏性あり」といった古くからの伝統的な思想として、人々のあいだに浸透していた。

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